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ラウンドレビュー『山のリンクス』に挑戦

ラウンドを終えたマエストロは饒舌だった。
自他共に認めるゴルフ好きで、世界各所の名コースを知る
佐渡裕氏の眼に鳴尾はどう映ったのか。
ともにコースを回った水巻善典プロに、
ゴルフジャーナリストの菅野徳雄氏、
鳴尾ゴルフ倶楽部キャプテンの筏純一を交えた
好漢4名の座談は、各々のゴルフ体験から、
コース評、倶楽部論まで2時間に及んだ。

(2012年10月 倶楽部ハウスにて)

スペシャルトークを見る

  • 特別寄稿 -「小さなグレートコース・鳴尾ゴルフ倶楽部」菅野 徳雄氏:日本ゴルフジャーナリスト協会顧問

ラウンドを振り返って

[菅野]
本日はラウンドお疲れ様でした。佐渡さんは鳴尾を回るのは初めてですよね。どんな印象をお持ちでしょう。
[佐渡]
一緒にラウンドした筏キャプテンがおっしゃっておられた「山のリンクス」という表現がぴったりなコースだと思いました。景色が自分の記憶にはっきりと残る感じです。「次はこんな球でこんなふうに攻略したい」と思わされますね。
[菅野]
ドライバーショットはほとんどど真ん中に行ってましたよね。見ていてさすが佐渡さん、いい球打つなあと。
[佐渡]
今日は途中からもう水巻プロのレッスンラウンドのようになって(笑)色々と教えて頂きました。
特に最近は、練習時間が思うようにとれない中でのラウンドが多く、いつの間にか自分の中での禁止事項みたいなのが5つくらいできていて、例えば頭を絶対に動かさないとか・・・
もっともその禁止事項も日によって変わるんですけれど (笑)。

感性のゴルフを大切にする

[水巻]
今日の佐渡さんを見ていてもうこれは絶対にゴルフにはまる人だと思いました(笑)。自分の足元しか見えないくらい集中してる。
[佐渡]
水巻プロからは「ボールから先のところをはじいていく感覚で振るだけです」というアドバイスを頂きましたが、「それができないから苦労してるんじゃないか(笑)」というところから始まり・・・・
ラウンドしているうちに、もっと体を使ってボールを自由に遠くに飛ばしていきたいとか、そういうゴルフ本来の楽しさや感性が目覚めてきました。本当はこのインタビューを受けずに今すぐにでもそこの練習場にいきたいくらいです(笑)
[水巻]
プロの世界でも結局はその感性が優れてる人だけが残っていくんです。青木(功)さんみたいに自分の感性だけでできる人は70歳になってもできるけど、どこかで理屈にはまっていった人はできなくなります。

ショットの弾道をイメージする

[佐渡]
今日はすごく印象に残ったショットがあります。10番の長いパー4の2打目を左に引っ掛けてしまい、残った3打目。土手でボールが止まりつま先下がりの残り90ヤードくらいでしたかね。前の木が少し邪魔して低い球だとグリーン手前のバンカーに入る。高い球だともう1本前の木の枝に当たってしまう。すると水巻さんが(小さな隙間をさして)・・・「イメージしてください」と。
[水巻]
あそここそ感性が大事。あのシーンで持つクラブによって何度開きなさいというのはない。5Iならこれくらい、PWならこれくらいという自分の感性で打つだけ。
[佐渡]
あんな小さな隙間に打つ技術は自分にはないと当然思うわけですけれど・・・「そこにだけ球が行く映像を描いて、打ちぬいて下さい」と。それでチャレンジしてみたら本当に打てたんです。
[水巻]
基本的に人間ってみんなその感性を持ってるんですよ。佐渡さんは特に感性が優れているんですけど。できないのは、できないと自分が考えているだけっていう場合が結構多いんです。

どうしてゴルフに「はまる」のか

[菅野]
佐渡さんがゴルフをはじめたきっかけは?
[佐渡]
指揮者としてはじめて仕事を得たのがフランスのボルドーでした。イギリス人とフランス人の友人にゴルフフリークがいて、彼らにすすめられたんです。
[水巻]
じゃあ海外でゴルフをはじめたんですね。
[佐渡]
そうなんです。実際にラウンドするのは1993年なんですが、もうそこから相当はまって・・・ヨーロッパは日が長いので1日2.5ラウンドを1週間続けたことがあります(笑)。
[菅野]
どうしてそんなにはまったんですか?
[佐渡]
どうでしょう・・・うまくならないからですかね(笑)。一つは止まっているボールを打つことにあるからでしょうか。よいショットも悪いショットもすべて自分に責任があるというか。そして自然の中にいるということ。風が吹いても雨が降っても自分がそこにいる。そしてやはり仲間でしょうね。
僕がフランスにいた頃(現在はベルリンに拠点)のメンバーコースがパリのサンノンというゴルフクラブ。ここに入会するのはすごく難しくてもう皆さん何年も待ってる。僕が指揮者をしているのを知っていて強力な推薦があったのですが、理事長やキャプテン、村の文化局担当者なんかがそろって入会審査するんです。もちろん全てフランス語で答えないといけない。
[佐渡]
緊張の中、一発目の質問が・・・「指揮とゴルフ、どちらが難しいか」というものでした。ジョークをいうつもりはなかったんですが「指揮は指揮棒を忘れてもできるが、ゴルフはクラブを忘れるとできない」と答えたらそれがもうドッと受けて(笑)。僕は入会することになるんです。
[菅野]
それは佐渡さんらしいエピソードですね。

音楽の感性、ゴルフの感性

[菅野]
さきほど感性という話が水巻プロから出ましたが、音楽こそ感性という感じがします。ゴルフとの共通点はありますか?
[佐渡]
時間をかけてじっくり対峙してゆくという点ではゴルフとシンフォニーは似ています。コースの中に色々な風景があるように、音楽にも穏やかで雄大なところや狭いところがある。音楽を作ってゆく時には流れとかスピード感というものがあってそこも共通している。
そして、同じ空間、時間の中をさまざまな人たちと過ごすことで人生を共有しているような感覚になるところもそうですね。
[水巻]
なるほど。逆に異なる部分は?
[佐渡]
数字に表れることでしょうね。演奏会はなかなか点数をつけることができないけれど、ゴルフはそれがはっきりする。また距離や打数など考えてプレーする数字に関係するスポーツと言えるかもしれないですね。
ただ、音楽は数字に表れないといいましたが、実は音楽にも「黄金比」みたいなものがあるんです。目に見えないけれど絶対的にうまくいくテンポ数が実はあってそれを見つけてゆくのが音楽なのかもしれない。
僕は母が音楽の先生で父が数学の先生。それがうまく僕の中で混ざっています(笑)

コースは人が作るもの

[菅野]
さて、話題を変えてゴルフコースの話をしましょう。僕が考える世界のベストコースは、来年全米オープンが開催されるメリオン。日本ではやはり鳴尾ゴルフ倶楽部。もう唯一無二といっていい価値がある。はじめてBIG3 in Japanで鳴尾に来た時にはもう圧倒されて。冥途の土産には是非鳴尾を持っていきたい(笑)。
[水巻]
長い時間をかけて雨風の影響を受けてこの地形ができた。そして、80年以上も前の人たちがゴルフをよく知っていて本当に楽しむためにここの地形をみつけてきて・・・例えば1番は緊張するからフェアウェイを右に傾けて林。林が嫌だから左に打つとバンカー。2打目はスライスかけ損なうと左の谷底に落ちてノーチャンス・・・みたいに一つ一つのホールをものすごく考えながら作っていったのだと思います。
[菅野]
それをずっと変えなかったのは?
[水巻]
ここの人たちが代々頑固だからじゃないですか(笑)。「ゴルフとはこういうものだ」という考えをちゃんと持ってるというか。結局コースは人が作るものなんです。

鳴尾は好き嫌いがはっきり分かれるコース

[水巻]
オリジナルがいくらよくても時代の流れというか、例えば日本中がベントグリーンにしなきゃいけないみたいな時がありましたけど、そういった時も何かの力が働いて鳴尾はそうしなかった。
80年以上経っても、人間の力ではどうにも及ばない要素がちゃんと残されてて、「人間もうちょっとがんばりなさいよ」って言ってるんだと思いますよ。
[菅野]
鳴尾は知れば知るほど難しいって言いますが、どうも最近はいいスコアが出るのがいいゴルフ場みたいな風潮がありますね。
[水巻]
鳴尾は好きな人と嫌いな人がはっきり分かれるコースです。嫌いな人はいつも簡単なゴルフ場でやっててスコア=結果が出ることが好きな人なんですよ。ところが鳴尾が好きな人は、いつもいじめられるけど、いつかはいいことがあると思ってやってる人たち(笑)。昔はこうだったとかあそこはこうだったとか30年、50年後にも語ってしまう人たちなんです。
僕が初めて鳴尾に来てびっくりしたのは、80歳を超えたおじいちゃんが「最近スピンがかからないんだよな。教えてくれ、どうしたらいい。」って来るんですよ(笑)。多分40年前くらいはかかったスピンをまたかけたい(笑)。かけられないとすると球を止めるには高く上げるしかないと言うと、今度はそれを熱心に練習するんですよ。鳴尾はそういうものがどの世代にもある倶楽部なんですね。
[佐渡]
僕が今つけてるこのワッペンは、(ブレザーの胸部にあるワッペンを指さして)実は僕と友達四人だけで作っているゴルフチームのものなんです。GOLFBAKA(ゴルフバカ)の反対で、KABAFLGO(カバフルゴ)と言って、カバのキャラクターは僕がデザインしました。この連中は例えば朝8時スタートだったりするとゴルフ場が開く6時30分には来てしまう人達、いつもボールに触れていたいという。
[水巻]
ここの人たちはボール打つの、本当に好きですよ。日曜なんか上がってきたら練習場がもう人でびっしりで(笑)。
[筏]
じゃあ佐渡さん、今度はその皆さんで鳴尾にいらしてください。キャディは水巻ってのをつけますので(笑)。

素晴らしい鳴尾のパー3

[菅野]
世界の名コースには、そのコースを引き締めるような素晴らしいパー3が必ずあります。
鳴尾はいずれのパー3も本当に素晴らしいですね。特に僕は15番パー3。ホールごと切り抜いて額縁に入れて家に飾っておきたいくらいです(笑)。
[水巻]
あのホールは打ち上げてる割にはバンカーの形状がよく見える。それってすごく難しいですよね。バンカーの向こうにグリーンがあってそのバンカーの手前が谷になってるので。僕は特に12番パー3が好きですね。長くないショートってのがいいです。
[佐渡]
あれは遠く見えますよね。確か手前のバンカーに入れたような・・・
[水巻]
佐渡さんには手前でなく左のバンカーに入れて欲しかったですね。どれだけ深いか、みたいな(笑)。5番グリーンの左手前もそうなんですが、もうとにかく深い。

高麗グリーンがゴルファーを育てる

[菅野]
僕は日本のゴルフ場は高麗じゃなきゃダメだとずっと言い続けてきたんだけど、鳴尾の特徴は高麗グリーンにある。
[水巻]
高麗は日本の風土に合っていて、朝刈られた時から昼までの伸び方、夕方までの伸び方が早いんですよ。その時間に応じてやり方を変えないといけない。アプローチも順目と逆目で全然違う。そして高麗は、気持ちが強くないと打てないグリーン。強く打てば向こうにいっちゃうし、弱ければ曲がる。大事なのは「入ったか入らなかったか」ではなく、勇気を持って「やったかどうか」。高麗はそれを問うんです。日本選手が最後の最後で勝てないのはほとんどベントでしかやってないから。今はヨーロッパのゴルファーが強い。高麗もバミューダも何でもあってどのグリーンでもやらなきゃしょうがない。いい高麗がいいゴルファーを育てるんです。
[菅野]
鳴尾の高麗は昔の高麗と違って圧倒的に早く仕上がってる。
[水巻]
昔の高麗は音を立てて転がって、最後はシュルシュルって横に回ってましたからね(笑)。確かにかなり早くできてます。
[菅野]
トーナメントで回られている他のゴルフ場と鳴尾のグリーンの大きさはどうですか?
[水巻]
相当小さいですね。他は大体ここの1.5倍から2倍、大きいところだと3倍のところもありますね。グリーンが小さいから乗るとバーディチャンスなんですが人間欲張りだから左に切ってあると左を狙うんですよね(笑)。人間の弱いところを突いてくるグリーンです。
[菅野]
最近のグリーンはポテトチップスとかいって、一つのグリーンに面が3つ以上もあったりする。鳴尾はどうでしょう?
[水巻]
こんなに小さいのに乗っていいところとダメなところがしっかりある。たとえば12番ショートでも左手前3分の1くらいと右奥では全く違うグリーン。だからどこへ落とすかという技術が求められます。
[水巻]
鳴尾のグリーンは人間の感性をどんどん引き出してくれる。だからどんどんレベルか上がっていく。そこにメンバーの人がついてこれるか。もういやだ、こんなにいじめないでくれと(笑)。

倶楽部ライフ、それぞれの個性

[菅野]
佐渡さんはフランスでのご経験に照らして、倶楽部ライフについてどのようにお考えですか?
[佐渡]
サンノンは会員自体は結構高齢なんですけれど、プレーをしない人がしょっちょう倶楽部ハウスに来てるんですね。毎週木曜日に昔ピアノをやってたおばちゃまが演奏していてそれを聴きに来たり、食事だけをしに来る人、テニスをする人、プールに入りに来てる人もいます。20歳までは会員の家族は無料で、練習場は日没までいつもいっぱい。
[水巻]
僕がアメリカにいた時の倶楽部でも、女房や20歳までの子供はフリーでした。5〜6年前の話ですけれど月々$1800でゴルフは無料、クラブハウスもテニスも無料。マンスリーでミニマム$200くらいの食事をしないといけないというのはありましたけれど。
[佐渡]
サンノンは、コースは36ホールありますが、80ヤードくらいから芝から直接打てる場所がコース内にいっぱいあるし、全くの初心者でも回れるホールが4ホール作ってあります。次世代を預かるグリーンキーパーやキャディマスターがいて、次世代のゴルファーも育てているし次世代の会員も育てている、そこに倶楽部の方針や強いスピリットのようなものを感じます。非常によく出来た名門コースだったなと思うんですね。
[筏]
私の父も鳴尾にいたんですが、いつも13番であがって囲碁をやって帰っていた。倶楽部競技の時なんかはみんなでバーで一杯やりながら最終組の結果が出るのをわいわい待ってたりするんです。だから、お袋はゴルフというのは暗くなるまでやるものと思っていたみたい(笑)。1ラウンド半やるときは、内回りといって1〜6番回ってそのまま11番〜13番をプレーして上がる。そうすると普通に1ラウンドしてる人より2組くらい早く上がれるわけです。このあたりは鳴尾ならではの自由で面白いところです。

次の100年に伝えるべき伝統

[菅野]
最後に改めてお聞きしますが、ゴルフの素晴らしさとはなんですか?
[佐渡]
僕はスコットランドが大好きで、海外に初めて行ったのもスコットランド。まだゴルフもウィスキーも知らない高校生の時でしたけど(笑)。ゴルフをやるようになってからはオールドコースを一人で回ったりしますが、昨年ベルリンフィルにデビューした直後、2日間時間を作って、キャッスル・スチュワートというコースを回らせて頂いた。開場してまだ3年くらいだったと思いますが、ほとんどのホールが海に関係している完全なリンクス。スコットランドらしく雨が降っていたんですが、最後は雨が止んで雲の隙間から太陽の光がパッと差してきて・・・。自分は不思議な力の中で生きているんだと、そんな中で自分はゴルフをやっているんだという感覚。最後の18番は感動で涙がぽろぽろ出てきてしまった。あの美しい光景が今でも忘れられません。
[水巻]
ゴルフって本来そうやって楽しむものだと思うんです。トーナメントをやるもんじゃない。ゲームとして楽しんで、終わった後みんなで飲んで、今日はどうだったって語るのが本質だと思います。鳴尾はそういう「ゲームとして楽しめる」要素がふんだんに残された数少ないゴルフ場ですね。
[筏]
鳴尾は2020年に100周年を迎えますが、次の100年も原点ともいえる「真のゴルフ好きだけが集い、ゴルフを通じて親睦を深める場」という理念を次世代に受け継いでいけるよう、新しい世代の人たちの受け入れと人材育成を積極的に考えてゆかねばなりません。この厳しい社会環境の中で、倶楽部として守るべきところと開くべきところをしっかり見極めて、良き伝統を受け継いでゆきたいと思います。

(了)

【プロフィール】

佐渡裕氏 指揮者
1961年生まれ。
京都府出身。京都市立芸術大学を卒業後、故レナード・バーンスタイン氏、小澤征爾氏らに師事。89年、ブザンソン指揮者コンクールで優勝し、国際的な注目を集める。現在ヨーロッパの拠点をベルリンに置き、フランス、スイス、ドイツ、イタリア、ロンドンなどヨーロッパの一流オーケストラへの客演を毎年重ねている。2011年5月にはベルリンフィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会にデビューし、ドイツを中心に今後の活躍が一層期待されている。国内でも兵庫県立芸術文化センター芸術監督や「サントリー1万人の第九コンサート」指揮などを務め、2008年4月よりテレビ朝日系列「題名のない音楽会」の司会を通じて音楽の魅力を広く伝えている。

佐渡裕オフィシャルファンサイト
菅野徳雄氏 日本ゴルフジャーナリスト協会顧問
1938年生まれ。
岩手県出身。立教大学卒業後、日刊スポーツ出版社、学習研究社でゴルフ雑誌『パーゴルフ』の創刊に参加。1972年よりフリーランスとして活動。分かりやすい技術論と辛口の評論で知られるジャーナリスト。著作に「トッププロのここを学べ」「即修 ゴルフ上達塾」他多数。
前日本ゴルフジャーナリスト協会会長。
特別寄稿「小さなグレートコース・鳴尾ゴルフ倶楽部」
水巻善典氏 プロゴルファー・鳴尾ゴルフ倶楽部所属
水巻プロが語る「鳴尾の魅力」
筏純一 鳴尾ゴルフ倶楽部理事・キャプテン
2014年2月キャプテン退任。
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