しかし今回のシニアオープンのセッティングはやさしいイメージとはほど遠く、突然“牙を剥いた”という印象です。雨のせいもあって自分がイメージしていたほどではありませんでしたが、それでもあれだけ速いと外したときのアプローチがなかなか寄らないので、ショットを調整するのに少し時間がかかりました。
この速いグリーンをはじめ、鳴尾のコースに手こずったプロが多かったように思いますが、今回レギュラーツアーでも女子でもなくシニアのトーナメントが開催されたことは、鳴尾にとって良かったと思います。このコースは女子では歯が立ちません。かといって力まかせに飛ばす傾向が強いレギュラーでは、鳴尾の良さが出なかったでしょう。シニアオープンを通じて、鳴尾という“知られざる名コース”の名が広く知られるきっかけになったのではないかと思います。
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雑誌で「日本のコーストップ100」などの記事を見ると、ランクに入っているのはトーナメントをやっているコースばかり。でもトーナメントをやっているからといって、必ずしも良いコースだとは言えません。テレビ映りがいいとかギャラリーが見やすいといった要素も開催場所として重要だからです。つまり「プロのエンターテインメントとしてのゴルフ競技」にふさわしいからトーナメントが行われているわけであって、それは本質的なコースの善し悪しとは別の基準なのです。
ある著名なコースの関係者が「改造して7500ヤードにしたい」と仰る。それは日本一と呼ばれるツアーの開催を目指してのことです。しかし、そのコースのメンバーの年齢を考えたとき7500ヤードも必要なのかどうか、私には大きな疑問を感じます。
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私は先ごろ広島カントリー倶楽部の改造を頼まれ、そのときに申し上げたのは「まず原点に戻りましょう」ということ。例えば、過植栽でホールが狭くなっているところを整備するとかなり広くなる。メンバーの方には「みなさんのお父さん、お爺さんはこのホールでプレイしたのですよ」と言って納得していただきました。
私はこれからのコース経営は二つに分かれると思います。ひとつは大衆的なセッティングや運営で多くの人を集客する方向、もう一方は閉鎖的な運営で魅力を守り続ける方向です。どこも運営には苦労されていると思いますが、オリジナルが残っている数少ないところは、ぜひとも残して欲しい。もちろん鳴尾はその筆頭です。
文化遺産というほどの歳月は経っていないけれど、その存在は充分に「文化財」の類でしょう。これからも、あの素晴らしいイマジネーションを受け継いでいただきたいと強く願っています。
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